1.はじめに
授業でストレスについてのビデオを見て、現代人、特に働く30代の人に、ストレス(心理学において、個人に心理学的なひずみ、不均衡をもたらす物理的または心理的刺激)にうまく対応できず、心の病になってしまう人が多いことを知った。この場合のストレスは、社会的、精神的なものが関係していると考えたが、情動の影響を強く受ける自律神経中枢とどのような関係があるのかくわしく知りたいと思った。そこで今回はストレス、自律神経系というキーワードをもとにして主にストレスが自律神経系の及ぼす影響についての問題点を2つの論文を参考にして考えてみる。
2.選んだキーワード
ストレス、 自律神経系
3.選んだ論文の内容の概略
「暗算負荷による自律神経機能および脳波の変化と両者の関連性について」と「手術中における外科医のストレス評価の試み −自律神経活動と血圧変化―」の二つの論文を選んだ。
?「暗算負荷による自律神経機能および脳波の変化と両者の関連性について」
この論文では、精神課題として暗算負荷を用い、課題思考中における自律神経活動と中枢神経系の電気生理学的変化を評価し、両者の関係について検討したことについて述べられていた。
インフォームドコンセントを得た健常者ボランティア30名(男性19名、女性11名、平均年齢26.8±3.9歳)を対象として、被験者はホルター心電図と脳波電極を装着し、安静時、暗算負荷時、負荷後を各10分測定記録した。心拍数変動周波数解析を行い、得られたスペクトルを0.04〜0.15Hzを低周波数成分(LF)、0.15〜0.40Hzを高周波数成分(HF)とし、指標としてそれぞれの成分のnormalized
unit(以下nu)を求め、交感神経活動の指標としてnuLFとLF/HF、副交感神経の指標としてnuHFを用いた。脳波解析は安静時、暗算負荷時、負荷後のアーチファクトを含まない連続した5.12秒を1エポックとする全10エポックの波形を解析し、θ1、θ2、α1、α2、β1、β2波帯域の絶対パワー値とピーク周波数を算出した。結果は、暗算負荷による自律神経系の変化では、暗算負荷によりnuLFとLF/HFは安静時および負荷後と比較して有意な上昇を示し、nuHFは有意な低下を示した。このことから、暗算負荷は精神的ストレスとして作用していることが示唆された。暗算負荷による中枢神経系の電気生理学的指標として用いた脳波では、パワー値は後頭部における遅いθ波帯域と速いα波帯域が有意に低下し、全誘導部位における速いθ波帯域と遅いα波帯域が有意に低下した。従来からα波の抑制は注意の高まりを反映していることが示唆されており、速いα波帯域は課題の遂行過程を、遅いα波帯域は注意・予期などの認識過程の高まりを反映すると報告されている。本研究で遅いα波帯域が全誘導部位で低下した要因として、暗算の遂行が進行するにつれて、数の配列といった視覚イメージを伴った可能性が考えられる。また、暗算負荷中における自律神経活動と脳波パワー値の変化率との関係ではC4部位とO2部位で速いα波帯域とLF/HFとの間に負の相関を、またO2部位で速いθ波帯域とnuLFとの間に正の相関を認めた。一般的に算術計算は左半球で処理するとされているが、自律神経のパラメータと相関を認めたのはC4部位、O2部位といずれも右半球であった。この結果も暗算処理を視覚イメージ化している可能性がある。これらのことから、暗算負荷による精神的ストレスが外的注意を高め、自律神経機能では交感神経の亢進と副交感神経機能の抑制を、脳波変化ではθ波とα波帯域のパワーの低下を示し、一方、瞑想ではリラクゼーションをもたらし、副交感神経の上昇とθ波の増加やα波帯域が増加するという報告があり、精神課題のタイプにより自律神経と脳波成が関連して変化することが示唆されていた。
A「手術中における外科医のストレス評価の試み −自律神経活動と血圧変化― 」
筆者はこれまでに自律神経系や心臓血管系に関する情報を取得し解析するシステムの構築を行い、精神的あるいは物理的な負荷を与えたときの脈波伝播時間、心拍数、皮膚電気反射等を測定し、これらの指標の有効性を検討するとともに自律神経活動を評価する指標として心拍変動解析を検討してきた。これをもとに、手術を何例も行っている外科医が体調を崩すことが指摘されている一方で術中の単純なミスによる医療事故の報告も後を絶たないという背景を受けて、緊張感が続く手術を日常的に行っている外科医が手術中どのようにストレスを感じているのかを観察するため、外科手術中の心拍数と血圧を測定し、主として心拍変動解析を通して術中の自律神経活動の変化を検討したことについて述べられていた。
実験の被験者は外科医3名(X:経験年数24年、Y:10年、Z:8年)である。3名の医師がそれぞれ執刀医と助手という立場で5回の手術を行いその際の心拍数と血圧を測定した。自律神経活動を評価する手法として@の論文同様、心拍変動周波数解析を行い、高周波数成分HFは呼吸性の変動に対応した副交感神経機能を示し、低周波数成分LFには交感神経機能と副交感神経の両方が含まれている。LF/HFを交感神経指標として用い、全体の周波数成分TO(total
frequency)を利用し、HF/TOを副交感神経指標として用いた。結果は、執刀医Xの心拍数は手術開始前から徐々に上昇し、術中はその作業に応じて変動していた。助手Zの心拍数は手術室に入ったときからかなり高く、手術の進行とともに一時期を除いて低下傾向を示した。交感神経の指標であるLF/HFは執刀医、助手とも手術を開始してからいくつかのピークが見られ、副交感神経の指標であるHF/TOは両者とも手術を始めてから小さくなっているのが見られた。状態ごとに見ると、執刀医の心拍数やLF/HFは血管の剥離や気管支周りの剥離を行っているときに大きくなっており、その瞬間はかなり緊張していることがわかった。実際に「血管剥離と気管支周囲の処置時が最も緊張する」作業であるという感想を残していることから、この結果は執刀医と助手の感じ方をよく表していると思われる。助手もLF/HFが手術前と比較して大きくなっていたが、その上昇の度合いも執刀医より若干大きくなっており、経験の差が緊張感やストレスの差となって表れていると思われる。手術開始後のLF/HFは執刀医、助手ともに多くの変動が見られるが、HF/TOは比較的変動が少ない。次に手術中の医師たちの状態変化をみるために5例の手術について、手術開始後30,60,90分後の心拍数とLF/HFを、執刀医と助手に分けてそれぞれの変化を見てみると、心拍数、LF/HFは共に執刀医の場合も助手の場合も同じ医師は大体同じような傾向を示した。経験年数が長い医師Xは手術前から心拍数が大きく上昇することはなく手術開始後に増加し、LF/HFも同様な変化を辿った。また経験年数の短い医師は手術開始前から心拍数が高く手術開始後は減少する傾向にあり、その際のLF/HFは30,60,90分後であまり変化が見られなかった。これら結果より、経験年数によってかなりストレスの感じ方が異なることが想像できる。また、常に緊張感がある手術中でも特に注意や集中を必要とされる作業をしているときは交感神経活動がその都度優位になるが、副交感神経活動は手術中は全体的の抑えられていることが分かった。また、助手、執刀医ともに緊張する作業に大体同期して収縮期血圧の上昇を認めた。
C考察
ストレスについてのビデオを見て、ストレス研究について紹介されており、唾液中のアミラーゼの濃度を測ることでストレス反応があるかどうか調べることが出来たり、暗算負荷などのストレスを与えると自律神経や血圧が変化することを知った。自律神経系は循環、呼吸、消化、代謝、分泌、排泄などの生命維持にあずかる機能を制御し、血圧を調節することで比較的一定の内部環境を維持して定常性を生む。自律神経の高次中枢は視床下部にあるが、視床下部には情動や生殖に関係する神経核が多く、自律神経中枢は情動の影響を強く受けると言われている。選んだ論文より、交感神経と副交感神経は相乗または対立して働いており、交感神経は不安や緊張などのストレスの多い状況に対処する為に血圧、心拍数を上げていることがわかった。ストレスに対応して骨格筋への血液供給量を上げ、瞳孔と細気管支を拡大させることで視覚と血液への酸素供給を好転、そして肝臓でのグリコーゲン分解と脂肪組織での脂肪分解により必要なエネルギーを発生させている。
最近特に1980年以降はストレス社会と言われており、30代の労働者に心の病をかかえている人が多いことを知った。その原因としては、職場での過剰な労働、リストラ、成果主義などが考えられる。この場合のストレスは社会的、精神的、生理的ストレスのことである。社会的、精神的ストレス反応としては怒りや緊張、不安など心理的に表出される。現代社会はこの社会的、精神的ストレスが多いのではないかと思われる。ストレスはそのほか物理的(暑さ、寒さ、騒音)、化学的(たばこ、酒、排気ガスなど)、生理的(飢え、感染、過労)等があり、全て生体にとって不快を催すものをいう。将来、私たちが携わる医師の仕事でのストレスはどうなのか気になったので、上記の論文を選んだのだが、人の命に大きく関与する仕事だけに緊張している時間が長いため、ストレスを感じることが多いのではないかと思った。ストレスが危険因子となる疾患には生活習慣病がある。また、うつ病、不眠症、過敏性大腸、不整脈、不妊症などがある。職場性ストレスが増加していることをうけて厚生労働省は「過重労働による健康障害防止のための総合対策」を2002年2月に策定し、事業所単位で時間外労働の削減と健康管理を徹底するように促している。企業でもそれぞれストレスを軽減するために対策しているが、その対策に産業医の役割が重要だと感じた。産業医の役割として、長期休養者の復職時に行う人事や職制への助言は、病状悪化の予防の観点からも重要だと思った。また、アンケートを実施し面談することなどで、職場でのストレス関連疾患者の早期発見と適切な就労環境の調整を行うことも産業医の大切な役割である。ストレス社会と言われる現代、私たちは医師として、職場と協力して快適な職場作りの形成に寄与していかなければならないと思う。
Dまとめ
私は今まで病床での医療だけに目を向けていたが、今回ビデオと論文を考察して、医師が職場と連帯して労働者の健康管理に当たることの重要性を感じた。私はストレスは誰もが抱えているものであるので安易に考えていたところがあった。しかしストレスはさまざまな疾患の危険因子となることを知り、将来医師になったとき、ニーズへの対応や早期発見につながる様に患者さんや職場とのコミュニケーションをうまく図りたい。そして、ストレスとうまくつきあっていけるような社会作りに貢献したいと思った。